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三人の話は全て同じ
ジリ…ジリ…
「はい、ヤットキット紹介所でございます。はい、魔導士の派遣についてご用命。毎度ありがとうございます。」
耳飾りでの通信を終えると灰色髪の男は、その内容を後ろの作業机で木型を削る男に伝える。
「グレン、この耳飾りに変な細工したろ?通信が来た音、なに?これ、いるか?」
話し掛けられた男はんーと言ったきり、反応がない。今は木型に夢中なのだろうけれど、灰色髪も慣れているようで気にせずに話を続ける。
「まあ…いいや。勇者の鑑定の依頼。一月後。空けとけよ。」
グレンと呼ばれた黒髪の男は、削った木型にやすりをかけながら、ええ、また俺?と呟く。
ガタガタと椅子を引っ張り、男の机まで近づいて来ると、そこでまたやすりをかけ始める。
「嫌なんだよな。勇者の鑑定は。親が魔力持ちだったりするとすぐ大丈夫ですか?って聞かれるから。ドロウが行ってよ。」
俺は時間が掛かるから、パスと灰色髪は手を振り、机に散らばった粉を床に払う。
「はいはい。やりますよ。」
「グレンは試験も受けて、免状も持ってるんだし、俺なんかより視る眼の素質がいい。気にしすぎだ。」
だけどねぇ…と粉を吹きながら黒髪のグレンは納得していない様子でまた、木型をこする。
…コンコン…コンコン…
紹介所の扉が叩かれる。
「あーいうすごい魔力持ちを見てると、魔道士として存在してていいのかと、本当に嫌になる。」
灰色髪のドロウが、どうぞと声をかけると、金色の髪を三編みにした少年が肩で息をしながら室内に入って来た。
黒髪のグレンが用意していた鉱物の玉を投げると、少年はそれを受け取り抱え込む。
「うあー…苦しい…。」
玉はゆっくりと黄色くなり、やがて輝き出す。
「よく頑張ったじゃないですか、王子。扉が叩かれるまで、気配がわかりませんでしたよ。」
ドロウがそれを眺めながら、形ばかりの挨拶をする。
「だいぶ…だいぶ制御できるようになってきた。だけどこれは、急にくるんだ、急にだよ?苦しいこと…。」
グレンが新しい玉を渡しながら、だからぁと王子を睨む。
「お城にこれ、置いといたらいいじゃないですか。こんな所まで歩いて来なくたって。」
黄色くなったのを転がしながらまた引き出しから黒い方を取り出す。
「嫌だよ。嫌だ。珍しがって白髭達が見に来るだろ。それよりグレンの封具はまだ?まだなの?」
グレンの手元にある木型を羨ましそうに見る目はまだ、庭で見つけた珍しい虫を追う子どもと同じだ。
「まだまだ、王子のは先です。成人したら身に着けて、魔王の討伐に行くんですよ。それまでには、その玉なんかなくても魔力をどうにかできるようになってくださいね。」
グレンは黒い玉を投げる。王子はそれを受け取る。王子は黄色く輝くそれをドロウに投げる。ドロウはその玉を床に落ちる前に受け止めた。
その時に少し、腰を捻った。俺はいつもこうだと、ドロウは文句をいいながらそこをさすっていた。
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