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王子が成人する前日に完成した封具は精巧で、厳かな魔力の塊のように、それ自体はなにも語らない。勇者が身に着けた時に息を始める道具だった。
「腕がいいねぇ。」
ドロウは封具が出来上がる度に、グレンの腕を褒める。それは芸術品であり、実用品であった。
「なんかさ、今の世に勇者って何人いるんだろうな。毎月来る鑑定で、半分は勇者の痣を持っている。魔王は一人なんだろ?成人したごとに討伐に行って、だめなら次、次と。」
グレンは王子の為に作った封具を机に置いて、下、横、上からと角度を変えて眺めながら疑問を口にする。
「魔王はそれだけ、強いんだろう?勇者は成人したばかりの若者だろうし、行っても倒せないと見越して次を用意している。」
「誰が?」
「知らないよ。俺たちにはわからない力だ。」
グレンは封具を手に取り、窓辺に行って光に当ててそれをまた角度を変えて見ている。
「グレンは親父さんの技術を受け継いで、封具が作れる。まだ若いのに腕もいいと評判だ。素晴らしいことだよ。」
ドロウを睨むように見たグレンは大きく溜息をつく。
「僕は…いや…父はね、勇者のためにいくつも、いくつも封具を作ってきた。それを身に着けて戻って来た者はいない。皆、どこかに行ってしまった。」
魔王にやられてしまった、とはグレンは言わない。
「魔王はもう、いらないだろう。僕が知る限り、魔王はなにもしていない。悪い噂の大半は人がやっていることだ。こんな伝統行事みたいなこと。」
「ならさ、ならさ、グレン。僕と魔王の討伐に行こうか?」
いつの間にか、扉の所で話を聞いていた王子が声を掛ける。
「仲間が二人、二人、いるんだろう?なら一緒に行こうよ。ドロウも。」
俺も?とドロウは自分を指して人数をかぞえる。何度かぞえても、ぴったり三人だ。
「それよりも、今日は君たち、登城の日だよ。登城の日。いつも忘れるから呼びに来た。ドロウ、髭を生やしててもいいけど、整えて来なさいよ。」
ドロウはだいぶ伸びてきた髭を手でさすってみた。
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