呪いの勇者

6/7
前へ
/109ページ
次へ
「悪かったよ。つい夢中になっちゃうんだ。魔力に関わる部分は。自分に関わりが深いからつい気になっちゃうんだろうなぁ。」  気になっちゃうんだろうなぁ…じゃ、ないよ。意識の戻ったガトラーは再びトムの後ろを歩いている。今度は静かに、余計な事を言わないように、彼の夢中ポイントにはまらないように。 「また都に戻るぞ。夜に花火が打ち上がるらしいんだ。見てみたいんだよ。花火。見たことないんだ。夜空に火の玉が飛ぶんだって?恐ろしいな。」 「勇者様、花火は恐ろしいものじゃありません。美しいものです。あなたのようにお強い方が、恐ろしいなんて言葉、使うものではありませんよ。」  かしこまって、いちいち丁寧に言ってみるとトムが吹き出す。なにそれ。似合うな、その言い方。とガトラーを振り向き、なあと目を細めて下から覗き込む。  少し長い栗色の髪を片方、耳に掛ける仕草をすると深い碧色の宝石でできた耳飾りがシャラと音をたてて揺れる。 「花火、一緒に見よう。宿屋はとっておいた。これ、鍵。僕は用事があるから宿屋の前で待ち合わせだ。その時に僕のことを全部教えてあげるよ。かなり、珍しいタイプの勇者なんだ。」 「俺を野放しにしたら、また逃げますよ。」 「じゃあ先に少し、教えてあげるよ。僕はね、呪われた勇者なんだ。」 「呪われた?」 「知りたいよね?これなら逃げられないだろう?宿屋の名前はここにある。また、後で。ガトラー、その時にさ、君のその力のことも教えて欲しいんだ。」  細めた目をゆっくりと微笑に変え、トムはガトラーのマントにまだ付いていた木の葉を一つ、二つ、摘んで投げる。ついでに指一本、彼の胸に触れることも忘れない。  じゃあ後で、と。ひょいひょいと張り巡らされた木の根を飛び越えながら、トムは都へ戻っていく。振り向いて、帰る間に変なのにやられるなよ!と遠くから叫ぶ。  やられませんよとこちらも叫び、手を挙げたその手を見て、なにやってんだと首を傾げた。遊びと思えば面白い。呪われているなら、その呪いでやられてしまえ。そうすれば、魔王の所に辿り着かなくて済む。  帰るのは俺だけでいい。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加