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ある日、前魔王が倒れ、新しい魔王が誕生したらしいと、依頼先から戻ったキヤトとアキトは「俺たちの時代は終わった」と言ってヤットキット紹介所をさっさと畳んで隠居してしまった。
キヤトは一生ここへは戻らないと旅に出て、アキトはグレンに封具の技術を継承して間もなく行方知れずとなった。
その間も、その後も王子とグレン、ドロウの三人は城で共に過ごし、成長していった。
王子の教育係だけでは面目が立たないと王が思ったのか、二人共秘めた野望があったのかわからないけれど。成人した二人は「ヤットキット紹介所」の窓を再び開けた。父親達と違うのは「勇者専門」承ります、という点だった。
若い二人にはまだそれしかできなかったのだろうとは街の噂であったか。
グレンとドロウが先に成人し「ヤットキット紹介所」を再開すると王子はもっぱらそちらで過ごす方が楽しくなり、歩いて遊びに来ては二人に怒られていた。王子が強力な魔力持ちとは世に知られたもので途中で誘拐されたり、暴漢にあったりという心配は無用だった。
グレンは昔から魔導士として魔力が少ないことを気にしていた。それを補う技術と眼だろうとドロウは言って聞かせてきたが、王子とドロウの魔力を昔から見せられていては、その羨望は大きくなるばかりだったのだろうか。
王子が「一緒に魔王の討伐に行こう。」と湖に静養にとでも言うように誘った時、一番怒ったのはグレンだった。王子が帰ってからだったが。
「あんなことを言って、失礼だ。勇者の仲間は、勇者が認めた最強の二人と決められているはずなのに。僕なんか入れるはずがないのに。なんのつもりだ。」
魔王の討伐に行こうと誘われても、誰かの封具を作り続けながらグレンはずっと文句を言っている。
「ドロウはいい。行って来い。あの王子と同程度の魔力なら最強の名にも申し分ないだろう?」
なに言ってんだよ、とドロウは取引先名簿に目を通している。本当に魔王の討伐に連れて行かれるなら、多くはない取引先をどこかに割り振ってから行かないといけないからだ。
「最強なんて、なんとでも言えるだろう。えーっと俺と、王子とグレンは最強の絆ってことだよ。ほら、最強二人。な。」
俺は行かないからな!とグレンはまた怒る。
「でもさ、魔王ってどんな奴か気にはなるよな。魔王の力は他とは異端というから興味はある。」
ドロウは天井を眺めながら、髭をいじって考えている。
「異端の魔力、ねぇ…。」
グレンは封具を作る手を止め、窓の外に目を向ける。
「今の魔王には継承者がいないらしい。」
そのことを思い出し、口にしたドロウはその時のグレンの光る目を見逃してしまった。
「ふうん…。異端の魔力には後継ぎがいないのか。」
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