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「これを持って行きなさい。最高傑作。お揃いだし。」
アキトは上機嫌で三人に碧色の宝石で作った耳飾りを一対ずつ渡した。
それをまた、窓辺へ行って日の光にかざして眺めるグレンの瞳が輝いたのは、宝石の光か、羨望か、またドロウは見逃してしまった。グレンはしばらく窓辺に立っていた。
「また…また来ます。僕はまだ勇者だ。アキトを救い、魔王無き世を作れる道を探して、また来るよ。」
王子は全く叶う自信のない約束をして広間の扉を開けた。その時、さっきまではいなかったしわしわの老婆がアキトの横に立っているのが見えた。
「誰か一緒にいたんだな。ならまだ、安心か。」
ドロウは階段を降りながら、持たされた耳飾りを耳にはめた。王子も、グレンも。
「あれ。僕、片方を落として来たみたいだ。探して来る。」
グレンは階段を上がって、広間に戻って行った。
「嘘だな、嘘、嘘。父親ともう少し話したいのかな。外で待とうか。」
王子が軽い足取りで最後を一段飛ばしした時、後ろのドロウは階段を駆け上って行った。
「違う!グレン、だめだ!」
ドロウが叫ぶと同時に、異端の魔力が動いた気配がした。
一つが半分になり、小さな一つと大きな一つになり、また一つになる。
王子は黙ってドロウの後ろから走る。
広間の扉を開けると、アキトの姿は無く、玉座にはグレンが座っていた。
「前、魔王は、倒れた…新しい…魔王の誕生で…す…。」
しわしわの老婆がグレンの隣で杖に縋り付き、こちらも倒れそうにしている。
「おばあちゃん、座りな。」
グレンが玉座を譲ろうとすると、いやいや…と小さな椅子を出して来て、そこに収まる。
「今までとは…なにやら…違う魔王様、ですね…お話しください…ばばも…お助け…しま、すよ…。」
ひ、ひ、と老婆は苦しげな声を出す。
「笑うなよ。僕は前にいる二人になんて謝ったらいいか、必死に考えてるんだよ。」
老婆はまた、ひ、ひ、とひときわ高い声を出す。
「魔…王の寿命は、短い…それでもいいと…あなたは…選んだ。」
うん、と頷くグレンの耳で碧色が跳ねる。
「魔王無き世か…魔王無き世と引き換えに、グレンはどこかに行ってしまうんだね?」
王子の耳では碧色が踊る。
「なら、計画を立てよう。おばあちゃん、グレンはあと何年生きられる?」
ドロウの耳では碧色は動かない。目をつぶり、これからのことを考えていた。
走って階段を駆け上った時に転びかけて手を付いた。それが痛くて、手をぶらぶらと降ってみた。
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