三人の話は全て同じ

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 王子の父が統べる国から北に向かった村に、勇者の証と思われる痣を持った赤子が拾われたとヤットキット紹介所のドロウに通信が入ったのはそれから一月後の事だった。  グレンが魔王となってから、勇者の鑑定はドロウが担っていた。手の痣と、魔力の質を視ればいいのだが、グレンと違って時間が掛かる。あいつはスパッと言い当てていたのにと、ドロウは落ち込みため息をつくばかりだった。  王子とドロウは勇者の痣を持つガトラーと名付けられた赤子を、グレンに差し向けることに決めた。  ホイルは魔王城から国へは帰らず、シノビの国に潜んでいた。王子様が城に帰ってしまっては、自由がきかなくなるからだ。ドロウだけが国に帰り、王子とグレンからの手紙を持ち王に詫びに行った。  手紙には「魔王は倒したが、しばらく旅を続ける」と書いてあった。王からは何故連れて帰らなかったと、笑いながらだが言われ。全く、嫌な役回りだと思っていた。  ガトラーを親から離せる歳になったらシノビの国へ送り、成人を待つ。グレンは封具を作り、ドロウがそれを身に着けさせて旅立ちを見送る。計画通りにいけば、これで魔王の歴史が終わる予定だった。  だが、誰も知らない力がそれを阻止する。  ガトラーを拾った夫婦に双子の赤子が産まれ、その一方の赤子に痣があり、強力な魔力を持つことがわかった時。また、もう一方が強力な魔力を吸い続けながらも、全く魔力を持たないことがわかった時。そして、ガトラーから勇者の痣が煙のように消えた時。三人の計画は大きく崩れ、苦労して組んだ舞台装置がまるで、張りぼてだったかのような脆さを露呈した。  ガトラーは勇者の忌み子になり、魔王・グレンの元へ送られて監視されながら育てられた。グレンは楽しんでいたけれど。  双子の勇者はドロウが監視をしたけれど、トムの魔力からカクレの身体を守るため、ホイルのいるシノビの国へ送られた。  結局、本当の勇者はドロウが育てることになったというわけだ。  グレンの寿命はガトラーの成人と同じ頃とみていたから、それも狂う。グレンの命は予想より伸びたが、あと一年持てばというところで衰弱が始まった。  ガトラーからそれを隠すように「遊び」に出し。ホイルはグレンに魔力を補給し続けた。グレンはトムの封具を完成させ、ドロウがそれを旅立たせ、仲間を連れて自分を討伐しに来るまで、老婆が運んで来るホイルの魔力を得ながら命を繋いでいた。  ある時から、老婆はグレンの傍から離れなくなった。それは最後が近付いたという知らせだった。 
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