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幸いの使者
魔法使いの老婆は嘆く父と母、赤子、そして兄とあの三人を思い出して言った。せめてもの救いが訪れるように。
「幸いの使者が参ります…。」
それは誰か?魔王の元へ行けば会えるのか?誰も知らなかった。それはただの老婆の慰めだったのだが。
その言葉と、ドロウが双子を見て放った「呪いの勇者」という名が共に動き出した。
双子は三人が思い描かなかった勇者の道を歩み出し、忌み子の兄はしきたりとして魔王の元へ送られ、途絶えさせたいと願う魔王に後継者が生まれてしまった。
グレンは魔王としてガトラーを育て、消える前に魔王の力を渡した。
ドロウは魔導士としてトムを育て、封具を身に着け旅立たせた。
ホイルは師匠としてカクレを育て、剣士としてトムと王女を待った。
「これが、呪いの勇者と幸いの使者の真実だ。巻き込んで、すまなかった。」
三人の男が全てを語り終えた後、この話をした者に深く詫びた時。それを聞いていた三人の男はこう言った。
一人は「わかった。大丈夫だよ。それで良かったんだ。さようならだね。」そう言って、魔力が駆け回る身体を床に横たえた。グレンが耳に髪を掛けてくれる。耳飾りに魔力と言葉のせた時、その身体は消えた。
一人は「俺は、知らずに手にかけてしまった。」そう言って、床に額を打ち付けて謝った。ドロウはその肩を、背中をさすり、なにも言わずにそのままふらふらと広間から出て行った。
一人は「なんだそれ、ばかばかしい。」そう言って、立ち上がると走ってその場から去った。ホイルは追いかけようとしたが、髪の毛を引かれて出来なかった。
男の話を聞きながら、ホイルの髪の毛を三つ編みにしていた王女は思った。
三人の男は、詫びる相手を間違えている。
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