幸いの使者

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「一番噓つきは、あなたね、王子。自由のきかない剣士のフリもお上手だったこと。」  金髪の三つ編みが朝日に光り輝いている隣に、ホイルのマントを頭からかぶった王女が笑うでも、泣くでも、恨むでもない、静かな目で見ている。 「そうです。僕が一番嘘つきで、一番、一番、罪が深い。」  ホイルのあの陽気さはどこかへ消え、今は落胆も、後悔も、懺悔も全て意味がないとわかっているのか、ただ座って遠くを眺めている。きっと初めて味わう感情なのだろう。あまりの空虚さに目の前の色覚さえ嘘ではないかと疑っているようだ。 「エリさん、すみません。ごめんなさい。あなたの魔力、髪の毛、全て僕が奪ってしまった。ごめんなさい。」  エリはホイルの手袋を外し、その右手を握る。 「行き倒れになっていたのは、嘘じゃない。勇者を待ちながら、グレンに魔力を送っていたら、魔力が尽きたのね。」  ごめんなさい、とホイルはただ詫びる。 「髪の毛のない私を好きだなんて人がいたら、私、なんて言うかわかる?」  ええ…とホイルはまだ虚ろな目でエリを見て、その突然の問い掛けに真剣に頭をひねる。 「わかった。失礼ね、同情なんてしないで。ですね。そうだ、わかる。」  ホイルはこの一日でエリの性格を良く把握したようだった。 「その通り。だから私から言うわ。あなたが好きよ。髪の毛が生えるかわからないけど…少し見た目が落ち着いたら、国まで迎えに行きたい。」  喜んでと、ホイルは即座に頷く。 「勇者の証が戻って来た厄介な僕を、好きだと言う人がいます。そうしたら僕、なんて言うと思います?」  ふふ…とエリは輝く瞳でホイルを見て、その必然の問いに気軽に頭をかしげる。 「わかった。いいんですか?こんな僕で?嬉しいな。でしょう?わかるわ。」  エリもこの一日でホイルの性格を良く把握していた。 「その通り。でも、僕からちゃんと言いますよ。僕も王子様ですから。エリさん、僕の国に来てください。僕の妻になって欲しい。僕の、妻に。」
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