幸いの使者

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 熱い、苦しい…。  酒に酔って霞む視界に、灰色が映る。トムの髪は栗色だ、彼ではない。これは、俺か? 「呪いを解いてやる。」  灰色髪で髭を生やした…自分に良く似た男が、にこやかに笑いながら、まだ使われていない椅子に座る。 「お前も、歳取ったな。そんなんでまだ若い奴を追いかけてんだ。」  男はドロウよりだいぶ歳上だけれど、爽やかに笑うからか、兄弟のようにも見える。 「ここには、一生、戻らないんじゃなかったの?」  古い店にはな。と昔からキヤトは紹介所を「店」と呼ぶ。 「仕事、代わりにやっといてやるから、東の方へ旅でもして来い。」  なんでまた、とドロウは頬を膨らませて机の後ろに置かれた長椅子に寝転び、目をつぶる。涙が溢れるので、横を向くふりをして袖で拭う。 「灰色髪は一緒だからなぁ。マントかぶってれば、誤摩化せんだろう。ここまでくれば、歳なんてわかんないもんだ。」  ドロウの机をガタガタと漁り、グレンが作った古い耳飾りを見つけ出す。あーあーとドロウの耳飾りに通信を流す。お前もなんか言ってみろ、と言うので魔力を流すと。 …ジリ…ジリ…  音がする。 「なんだこれ。面白い細工だな。」  キヤトは笑って。 「なんかあったらこれで教えろ。俺もわかんなかったら通信するから。」  だから、なんでと呟く背中を蹴られる。 「魔王の城は、行き着けない勇者が大半だ。封具はな、ある程度で壊れる仕組みだったんだ。教えてきてやれ。」  そんくらいのお使いならできるだろう…と背中に聞きながら、ドロウはもう扉を開けている。  走っても時間は掛かるのはわかっている。でも足は急き、前に進みたくて走る。   おーい、と後ろから声がかかる。 「また怪我するぞ。忘れ物。」  窓から碧色が二つ落ちてくるのを、右手と左手で捕まえる。今度はうまくいった。  ドロウは前を見て、東へと向かう。あんなに恐ろしいと睨んだ空は、もう見えていなかった。  キヤトは耳飾りに触れる。 …ジリ…ジリ…  あっちも鳴るのかと吹き出しながら、相手が出るのを待つ。 「あ、王子。ドロウは行きました。歩いて行ったから、国堺を出るのは明日になるかと思いますが。」 ーなら、明後日、鑑定をお願いし   たい。あとあと、キヤトは魔王   の魔力も視れるかい? 「それは…難しいですね…。ああ、でも、いるじゃないですか。元魔王が。」 ーあ…なら…急がないから、まだ  いいや。うん、いいや。 呪いの勇者と幸いの使者 おわり
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