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ドロウはなにも知らない
「トム、来る度になんか…こう…感じが?変わってくるけど…大丈夫なの?」
昔は「悪の城」と呼ばれたこの魔王の城にはもう魔王すらおらず。二年前から住むカクレとガトラーがここでそれぞれの生活を送っていた。
二人はお互いに気持ちは一緒だったし、離れがたいとは思っていたけれど。ガトラーがカクレを救った時に感じた盛り上がりは、お互いが一度眠り、目が覚めた時には冷めてしまっていた。
カクレはシノビの国で修業をした身で、やはり勝負には勝ちたいと思っていた。ガトラーを手に入れた途端に彼への扱いが淡白になり、いつもいつも一緒にいたいと甘えて来るのは…稀だった。外見にそぐわず、つまらないとガトラーは心の中では思っていた。
ガトラーは魔王に育てられた身。グレンが「魔王学」のような事は教えなかったとは言え、幼少期の愛読書が「歴代魔王記」という歴代魔王の自慢話が書き綴られたものだった。魔王はこうあるべきものという刷り込みが消えない。森で手にかけた若者たちのことも後ろめたくて、新しい人生を気分良く始めた…とは言えなかった。
カクレはガトラーが「そういうこともある、それでもいいか」と思えるようになる時が来るだろうし、それを話してくれるようになるといいな、と思っていた。頭の中は大人な彼はガトラーを温かく見守っていた。
それよりもカクレにはこの城の蔵書がとても魅力的だった。毎日そこに籠もって魔力の書物を読むようになり、そのうちに「魔力の源」についてグレンが書き記した紙の束を見つけるのだった。
「毎日、毎日、ここにいるんだって?カクレは魔力に呪われてるな。」
蔵書部屋の扉からトムが顔を出す。
耳に掛かっていた栗色の髪の毛はかなり短く切られ。ガトラーが「動物のようだ」と言い表すように、撫でれば手に刺さりそうだ。
「久しぶり。また荒っぽい感じになって…。」
今、二人で並んでも双子には見えないだろう。そうしなくても良くなったのは、平和な証なのだけれど。
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