ドロウはなにも知らない

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「ちょうどいい、手伝ってよ。今、バラバラなのを整理してるんだ。分類してさ。僕の勝手なんだけどね。」  トムが部屋に入ってきて、重ねられた書物を手に取る。 「カクレ、こういうのを読むとは知らなかった。シノビの国で習ったの?」  この山はあの棚、これはあっちとカクレが指すのに素直に従いながらトムが聞く。 「習うもなにも、読み書きは村で習ったじゃない。一緒に。」  隣に座って字を読み、書いていた幼い頃を思い出したのかトムは少し穏やかな顔になり、そうじゃなくてと書物をパラパラとめくる。 「魔力について知りたいと言ってたけど、嗅ぎ取るだけじゃなくて、学問としてもシノビの国では教えてくれたのかな、と思って。」  僕にはさっぱりわからないとトムは書物の字を追うのを早々に諦める。 「トムはさ、僕がシノビの国で色事ばかりしてたと思ってるだろう?」  カクレがやけに艶のある声で言い。人差し指と中指と薬指を、一本一本、綺麗な間隔で顔にかざして口元だけで笑う。 「そういうのだよ。その仕草。ガトラーだけにしてよ。見せるのは。」  色事だけしていたという誤解は今日も解けない。師匠のホイルとも?という誤解も、トムが聞かないから解く機会もない。 「ガトラーね、彼とはあまりしないから。」  カクレの身体は魔力が溢れたあの日以来、発作のようにたまに暴れ出す。それを、まだ残っている鉱物の玉に送り込みしのぐ、という繰り返しをしていた。その時はガトラーに甘えて頼む。君を介して出したい、と。 「それだけ?」  それは意外と、トムの手が止まりカクレの口元をじろじろと見ている。 「トムはさ、苦労してるだろう?」  カクレは質問には答えず、トムに質問を返す。 「苦労?」 「そんなに強い魔力を受け止められる相手がいるとは…思えない。あの魔導士に玉を使ってやってもらうぐらいじゃないと、難しいだろうな。」  どうやって熱を処理してるの?とまた艷やかに笑う。  トムにとって、今はまさにそれが大問題だとは、言えずに書物を先程より積み上げて無理に持ち上げた。それが崩れて落ちるのを見ながら、気を付けろよとカクレが笑い声を上げた。  
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