ドロウはなにも知らない

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「トムはね、最初は見た目で苦労したらしいよ。だからあの髪型くらいが、野で生きるにはちょうどいいみたい。」  ガトラーの前に蔵書室から見つけて来た本を積みながら、カクレが先程の答えを教える。 「これ、封具について書いてある本。あと、グレンが書いたらしいのもあったから置いておくよ。」  ガトラーの部屋にある机に分厚い紙の束をバサリと置く。 「どう?作れそう?」  ここ最近のガトラーはカクレが蔵書に夢中なのと同じように、グレンのような封具を作ってみたいという欲求に駆られ。試行錯誤を繰り返していた。  グレンはガトラーにその制作する姿を見せていなかったし、封具を作っているとも教えていなかった。地下室でその工房を見つけた時、ここにいたのかと呟いた。  工具類とやすり、僅かに残された木型、宝石の欠片。かつて一度だけ見たことのある封具の記憶を頼りにそれを再現しようとしていた。 「もう、身に着ける者もいないけどね。」  ガトラーはグレンの筆跡を見ながら、紙に指を這わせた。懐かしいな、グレンの字。とまたパラパラと紙をめくる。 ーカクレ、このまま俺の部屋にい   てくれたらいいのに。  ガトラーの口を開かない声がカクレに聞こえる。だめだとカクレが意識を逸らす。 ーカクレ、今日はそういう日じゃ  ないか無理にも、悪いしな…。 「僕は部屋に帰るよ。おやすみ。」  カクレは立ち上がり、少しだけ乱暴に扉を開ける。こういう、ぐじぐじしたのが僕は嫌なんだ。とまた少し乱暴に扉を閉めて、足音荒くガトラーの部屋を後にする。  したいなら、したいとはっきり…口付けでもしてくれたら。  僕はいつだっていいのに。
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