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ーガトラーが無意識にのせるの?
カクレの魔力に言葉を。
ーそう。急に聞こえるんだよ。法
則は、ない。
ーそれは、大変だな。教えてあげ
ないの?
ー教えたら、変に使うだろ?きっ
と。
「変にね…。」
カクレと魔力でまだ話せると確認したかっただけなのか、トムは口を開いて言葉を発する。カクレもそれに従う。二人でいる時は昔からの遊びのように、声を殺したり、出したりしてお喋りをするのが楽しみの一つだ。
「違うよ。これは、トムと僕だけの秘密の通信だから。あいつは知らなくていい。僕がのせない限り、わからないんだから。」
あんなに、ガトラーが欲しい、欲しいと言っていたのに。カクレの変わりようがトムには未だにわからない。カクレの跡を追いかけ魔王の城に辿り着いたのは、ドロウを巻いて二日後だったが。もうその時のカクレはすっかり冷めて、白けてしまっていた。
ガトラーは全く、そうではなく、カクレの冷めた様子にも気付いていないのがまた、奇妙だった。
殺されそうになったことを何度も謝られ…トムはすぐにガトラーを許したけれど、カクレは後ろから「許さなくてもいい。こんな奴。」とトムに文句を言い続けた。そんなガトラーはカクレの命の恩人のはずだ。それについてはカクレから聞いて、トムはいくらお礼を言っても足りないと思っていた。
カクレはこのニ年、ガトラーと付かず離れず。
たまに立ち寄るトムには関係が戻ったのか、進んだのか、退いたのか、そもそもきちんと約束をして一緒にここにいるのか。わからない、未だに。
カクレは泊まっていくトムのために整えた寝台に寝転び、枕に顔を埋めている。やけに静かなので、寝てしまったかとその耳元に顔を近付けた。
ーグレン、グレンって。
トムは寝台が軋まないように、端にゆっくりと腰を下ろした。カクレはうっかり魔力に言葉がのったのを、気付いていないようだ。
ー気に入らない。グレン。
ああ、そうかとトムは気付かないふりをして、窓辺へ椅子を持って行きそこに座る。
ーグレンはどうした?じゃない
よ。目の前にいたのは、僕だっ
たのに…。
トムは弟だけれど自分より随分大人だと思っていたカクレが、同い年の一人の青年だったかと思うと嬉しくて。声を出さずに笑っていた。
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