ドロウはなにも知らない

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ーガトラー。 「カクレ?…トムか。後ろから声、掛けられるとわからないもんだな。そっくりだ。」  ガトラーは夜の地下工房で書物と数枚のなにやら書かれた紙を見ながら、宝石の欠片を拡大鏡で右から左、表、裏と眺めている。 「熱心だね。封具を作りたいんだって?」  碧色の宝石は二年前の一時は全身に身に着けていたのに、今は自分のどこにもないなと、トムはその輝きを懐かしみしばし魅入る。  言葉にしてみると、ガトラーはそれが身に着けられていたトムの耳から足までを目で順番に見ていくようにして、切れ長の目をさらに細めた。 「グレンの作った封具は、とても美しかった。それにアキトの作った耳飾りも。」  笑っている目ではない。ガトラーもなにかを懐かしんで、記憶のあるそこへ想いを向けている。 「耳飾りはカクレがまだ持ってる。見せてもらいなよ。」  カクレはトムが耳飾りをドロウから受け取らなかったのを知り。なら僕にも必要ないと、身に着けるのをやめてどこかにしまってしまった。 「カクレの大事な物だ。悪いよ。アキトとグレンはこの宝石をどこから仕入れていたのかと思って。探しに行こうかと考えててさ。」  トムは頷く。 「僕も、どこかで見たら教えるよ。そういえば、僕の封具はあの森に置いてきてしまったな…。」  あの森で放り出してきてしまった封具が、古代遺跡のようにまだ転がっているのだとしたら。作ってくれたグレンに悪いなとトムは思いながら、寒気を覚える。 「見てくるよ。あったら拾って来る。」  頭を割られそうになった記憶が蘇り、正直あの場所には近付きたくもない。でも封具の現物が手に入れば、ガトラーへの恩返しにもなる。 「俺が行くよ。グレンの封具が見れるなら、早速明日にでも、探しに行って来る。」  ガトラーのこの欲求に、カクレは嫉妬している。それよりも前からだけれど。  グレン、グレンと。嫌になるねとこれは言葉にはせずガトラーの肩を数回叩き、見つかるといいなと覚えている限りの目印を教えた。 ーガトラー、おやすみ。  扉のない石造りの地下工房から、地上に繋がる階段を一段上り、声を掛ける。 「ああ、おやすみ。」  ガトラーは振り向かず、手を上げて軽くひら、と振る。  これだけわかれば後はまた、今度来た時でいい。  ガトラーは明日から城を出て「グレンの作った封具」を探し回り、カクレは嫉妬に狂うだろうけれど。  上った階段を一段戻り、カクレの魔力が満ちる日はちゃんと城に帰れと忠告しなくてはと言おうとしてやめた。  そんなご褒美みたいな日を、あいつが忘れる訳がない。右ばかり見て、封具が美しかったのか、それを身に着けていたカクレが美しかったのか。  きちんと言ってやればいいのに、不器用な奴だなとトムは階段を駆け上った。  
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