ドロウはなにも知らない

8/14

31人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
「戻ってきたねトム、仕事があるけどやるかい?」  根城にしている彼の元へ帰る前に、立ち寄った酒場で仕事を探す。トムが資金源に始めたのは、魔獣の討伐、懸賞金稼ぎ、用心棒。野良の魔力持ちが行き着く先だけれど、要は「なんでも屋」と言った方がいい。  最近は魔獣もいない。行ってみれば荒い野生の動物ばかり。魔力が強すぎるのがバレては逆に危険と、トムは簡単な仕事しか引き受けず、たまに目を付けておいた懸賞首を捕まえてはまとまった金を得ていた。 「簡単なのね。僕に合うやつ。」  ヘラと笑って、形ばかり頼んだ酒を少し舐める。この飲み物は身体に合わない。 「用心棒の依頼があるんだ。北の国へ行く一行に同行して欲しいそうだ。」  北の国はトムの産まれた村がある。帰るにはちょうどいいかとも考えを巡らす。 「どちら様が行くの?往復?行ったきり?」 「あれだ、北の国の王子が王に即位するんだと。それの祝に東の国の王子が出向く。往復だけど、一先ず行くだけでいいらしい。しばらく滞在して、帰りは向こうで雇うからと。」  トムは飲んでいない酒を持って立ち上がる。 「そういうのは、いいや。僕には王子様の用心棒なんて無理だ。」  待て待てと男はトムを止める。 「用心棒が必要なのは、それの前に行くお付きの方らしい。国から兵をそちらに回せないから、民間からというわけだ。」  ならとトムは承諾して、この場所に三日後と約束して酒場を出る。  三日で別れとは、寂しいけれど。ちょうどいいかと少し足を早める。愛しい思っているのはこちらだけなんだから、いいだろうと。  
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加