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マントを脱ぐ手ももどかしい…かと、思いきや。二つある寝台の一方に座って口元を吊り上げながら楽しそうに。
「どちらから脱ぐ?脱がせてくれる?」
と余裕の様子でドロウを見ている。元々から大人びたところがあったけれど、この二年間なにをしていたんだかと、幼い頃からトムを見てきたドロウは子どもが非行に走った親の気持ちがわかる気すらした。
「俺はお前の親でなくて良かった。」
なんだか興が冷めたドロウはもう一方の、トムが座っていない寝台に寝転ぶ。
あらそう?じゃあ僕は脱ぐよとトムは封具を身に着けた時のようにマントからスルスルと衣服を脱いでしまいそうになる。
「待て、待てよ。それじゃあつまらないだろう?」
そうだよね。ドロウ。申し訳ないんだけど、とトムは前置きをして急に恥ずかしそうにドロウの横に座る。それは演技か、本心かは、わかりかねた。
「僕はね、口付けすら、まともにしたことがない。」
さっきのが初めてかと、ドロウは自分の口を両手で抑える。それはトムを茶化している。初めてではないのは、ドロウだけが知っているとまだ思っている。
「何人かと試したけど、僕の魔力を受け入れられる者はいなかった。」
何人かと?ドロウは聞き返すけれどそれは盛大なため息で消されてしまった。
「ドロウ、考えられるのは君だけなんだよ。」
俺だけ、ね。気持ちの準備ができないままに、ドロウはトムから大切なものを受け取ろうとしていた。
「僕にはドロウしかいない。どこへ行ってもドロウにしか辿り着けない。だから僕を一生の伴侶にしてほしい。」
強力な魔力持ちは、こうも潔いのかと、ドロウはその真っ直ぐな瞳を見つめた。
そこには恥じらいも、照れもない。ついでに二年間ドロウから逃げ回り、魔力を持たない者と手を繋ぐだけみたいな崇高な恋までしていた悪気すらない。
このまま押し倒すかと、腕を取り寝台に転がしてみる。
「そういうぐじぐじしたのが、嫌なんだよ。はっきりいいとか、悪いとか返事をしろ。それからやれ。」
「いいです。」
ドロウは言って、のしかかろうとした。その身体はひっくり返されトムの強すぎる魔力に口内を支配され、またむせる。
水音と、ぬめりと、入れた魔力をまた自分に戻すように吸い上げる唇の動きが卑猥で、冷めた興奮が呼び戻される。
「僕は初心者だけど、理屈から考えればこうだ。あんたの魔力をまずは出す。僕の魔力も一度出す。それからなら、きっと最後まで繋がれる。」
ドロウはいい、とも悪いとも言う間を与えられず、トムの口に自身を含まれる。
少し間を置いて、出せた言葉は「いい…。」だった。
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