グレンはなんでも知っている

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 グレンの文字を木箱の上にある紙の束から追い始めた時、蔵書室の扉が打たれた。 「カクレ、ここか?」  いるよ、とカクレは紙の束を一つ手に取り、ドロウを手招きする。 「ガトラーはどこ行った?」 「トムが外した封具を探しに、都から少し行った森へ。」 「いつ戻る?」  ドロウは落ち着きなく本棚を見上げたり、床を見たりしている。 「わかんないよ。今日のうちに帰って来るかもわからない。魔力の気配がわかるんでしょう?気配がないなら、まだだ。」  紙の束に目を留める。ドロウは懐かしそうに目を細める。 「グレンのか。全部?」  一つを手に取る。 「箱の中にもある。熱心に調べていたんだね。魔力について。」  紙の束をめくりながら、ドロウは頷く。 「グレンは魔力を多く持たなかったから、魔力への憧れが強かった。」  わかるなと、カクレはドロウとは違う紙の束をめくる。 「グレンは、魔王になって強大な魔力を手に入れたろう?どうだった?喜んだ?」  ドロウは考えずに答えることができた、ずっと一緒に育ち見てきていたから。 「なんの憂いもなくなって、封具の制作と、魔力の研究に打ち込むことができた。グレンは幸せそうに見えたよ。」  カクレは紙の束をめくるけれど、またその文字は見えてはいても、追えてはいないようだった。 「ガトラーを可愛がっていた?」  その声は小さく、さみしげに聞こえた。 「ガトラーを大切にしていたよ。自分の子どものように。」  紙の束を無造作に掴もうとして、これはだめだとわかっている手は空を掴み。拳になったそれをカクレは自分の腹に打ち付ける。 「ガトラーは僕が大切にしようと思っていたんだ。初めて見た時から、あの小さなガトラーを。僕が。なのに、あんた達が僕から奪った。グレンの元に連れて行ってしまった。」  カクレの本心がやっと溢れ出してくる。 「やっと、一緒にいられると思ったのに。目が覚めたら、グレンはどこ?だって。グレンはいない。消えた。目の前にいるのは僕だったのに。」  ドロウは震える身体を抱き締めてやる。これは悲しみではない、怒りだ。激しい怒りのやり場がなく、カクレの震えは全身を支配していく。 「ずっと、グレンが付きまとう。封具、文字、書物…この城全部がグレンだ。僕に置き換わった、グレンが憎い。嫌いだ。」  ドロウは耳飾りからの通信に応え、耳たぶに触れる。まだだと魔力をのせて、カクレの身体をいっそう強く抱き自分に引き寄せた。  その背中を、カクレの拳が打つ。 「ガトラーは、悪くない。これから消えるグレンには、いいよとしか言えなかった…。僕のこの気持ちには行き場がない。」  ならもっと俺を叩けと、ドロウは拳の痛みを許した。カクレから与えられる怒りを背中に感じながら、トムと同じ顔、同じ身体付きだと思っていたけれど、違うなと考えていた。
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