That should be the first priority.

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 色々と考えた挙句に椿はその子の元へと掛けて行き、驚かせないようにと中腰になって優しく話し掛けた。 椿 「……大丈夫?迷子なの?」  少し警戒した様子の女の子は一歩後ろに後ずさって椿を見上げている。どうしたら怖がらなくても平気だと分かってもらえるだろうか……。得意ではないが、椿は笑顔を浮かべてみた。 椿 「ママと居たの?パパ?」 「……ママ……。」 椿 「そっか、どこではぐれちゃった?」 「……わかんない……。」  不安なのだろう、女の子はそう答えると泣き出してしまった。「大丈夫だよ、大丈夫。」よしよしと優しく女の子の頭をなでて涙を拭いてあげる……佐古がいつも、椿にしてくれていたみたいに。 椿 「お姉ちゃんが一緒に、探してあげるね。」 「……うん。」  こんな薄暗い裏路地にたった一人で怖かったろうに、今夜偶然にもこの辺りを彷徨っていて本当に良かった。椿はそっとその子の手を取り「行こ?」と言って人通りの多い通りへと出た。昼間はただの閑静なビル街が、夜になった途端にどこから現れたのか怪しげな飲み屋があちらこちらに目に留まる。一早くこの子の母親を見つけ出して無事に返してあげたいものだ。 椿 「ママ、優しい?」 「うん。」  女の子が緊張してしまわないように答えやすそうな簡単な質問を選んだ。何の絵本が好きなのか、好きな食べ物は何か、遊園地で一番好きな乗り物は何か……。それはもしかしたら、椿が幼い頃の自分自身に聞いていたのかもしれない。女の子の返事に笑顔で「そっか。」「そうなんだね。」と返しながら椿は頭の中であの頃の記憶を辿った。いつでもそばで笑っていたのは母で、いつでもこの手を握っていてくれたのも母だった。「お弁当……好き?」そう質問した椿の顔を見て、女の子はこう言った。 「お姉ちゃんも、ママに会いたいの?」 椿 「………!」 「ママに会いたい……お姉ちゃんも、会いたい?」 椿 「……うん、会いたい。」 ・・・本当はそんな単純でいいのかもしれない。いつからかそんな気持ちを簡単に言葉にして伝えるっていうこと、しなくなったんだ。お母さんに読んでほしいの。お母さんと行きたいの。お母さんのお弁当が……食べたいの。気を使って顔色を(うかが)って言葉を捨てて息を殺して、こんな風になりたくなかった。もう一度この子の歳に戻れるのなら、お母さんがおかしくなる前に抱きしめて大丈夫だよ私が居るからって言ってあげたい。あいつがいつも私にしてくれたみたいに優しく抱きしめて、泣いたって良いんだよって、素直になっても良いんだよって……弱みを見せたって良いんだよって言ってあげたいな。  パーカーの袖でゴシゴシと涙を拭き現実に戻ると、椿は今やるべき事に集中した。自分が今この子守ってやらなければ、将来この子が大切な人に巡り合えることも無い。こんなただ一瞬出会っただけの人なんて時間が経てばこの子はすぐに忘れてしまうだろう、だけどこの瞬間がそんなこの子の大切な未来に繋がるのだから……必ず母親を見つけ出す。 椿 「この道は通った?」  少し歩いてはそう聞いて、また少し歩いては聞いてを繰り返して少しずつ道を探していく。女の子が首を縦に振る道を辿って彼女が来たであろう道を遡っていくと、血相を変えて何かを探している女性が目に入った。 ・・・あ、多分あの人だ………。 椿 「あのー…」  そう言って女性の方に近付いて行くと、女の子が椿の手を離して駆け出した。振り返らずに真っ直ぐに母親の元へと掛けて行く女の子の背中を見つめながら、椿は女の子をあの頃の自分と重ね合わせて「じゃあね。」と小さく呟いた。 「ママぁー!!」 「みく……!!」  その子の母親は「ありがとうございます。」と何度も深々と頭を下げて椿に感謝をし、娘の手を引いて歩き出して何歩目の時だろう、女の子はくるっと振り向き大きく手を振った。「ありがとう。」交通量の多い大通りの歩道ではその声はあまりにも小さく、椿の所まで届きはしない。だけど今の椿には、今あの子がどんな言葉を言いたかったのか理解することが出来た。それはこれまでに沢山の人たちが自分という空っぽの(うつわ)に少しずつ少しずつ注ぎ込んでくれた愛情のお陰。 椿 「………さてと。」 ・・・ここ、どこだろう?さっき居た場所から随分と離れちゃったみたい。土地勘のない私にとっては致命的なシチュエーション……。 「おねぇちゃーん、何してんのー?」 椿 「………?」  薄暗い裏路地の暗闇の中からふら~っと不気味に四人組の男達が出てきてこちらに近寄ってきた。
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