「ココロノホシ」

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 190㎝はあろうかという長身のエドだったが、人を見下ろす様な威圧感は皆無だった。 きちんと躾られた大型犬の様に礼儀正しく、そして素直で人懐っこい。  その笑顔を肴に後藤も手酌の杯を干す。 純米大吟醸などではない辛口の本醸造のはずなのに、何やら甘やかに感じられた。  今夜、後藤が主催として行きつけの居酒屋で開いているのはエドの慰労会だった。 すなわちそれは、今年の酒が無事に仕込み終わったことも表している。  唯一の参加者にして主賓(しゅひん)はエドこと、エドワード・ハリストン。 後藤と二人きり、――いわゆる差し飲み状態だったが、始まって早々にすっかりとくつろいでいる様子だった。  エドは冬の間、後藤が杜氏を務める酒蔵で仕込み作業に携わっていた短期バイトだった。 その名前や、クセがある金色の髪に澄んだ青い瞳の外見からも一目で分かる様に外国人だった。  生まれた国は英国(イギリス)だ。 自己紹介はアメリカンジョークではなく、英国式冗談(イングリッシュジョーク)だったわけだ。  イギリス人同士の両親の仕事の都合で生後すぐに来日した彼は小学校卒業まで日本で暮らし、育った。 その後、両親と共にイギリスへと戻ったエドは日本の大学を志望し、見事に合格した。 エド本人はそのことを「日本に帰って来た」と、後藤に語った。
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