「ココロノホシ」

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 後藤が予め、今夜の主賓であるエドに「何か食べたいものがあるか?」を問うたところ、「納豆です‼」と即答が返ってきた。 「大好物なんです。ずっと食べられなかったので食べたいです!」 「お、おう。分かった」  前のめりに勢い込んでくるエドへとどうにか返事をしつつ、後藤が考えていたのは、  「外国人なのに珍しいな。日本人でも大嫌いで食べられない奴がいるというのに」だった。 根拠のカケラもない、『偏見』以外の何物でもないと、今の後藤だったら断言出来る。  後藤はエドが大好物を食べられなかった理由を知っていたので『納豆食う』、――ではなくて『納得』をした。  日本酒造りに納豆はご法度、厳禁だった。 納豆菌である、その名も『バチルス・ナット―』は非常に繫殖力が強い細菌だ。 酒造りの要である麹へと悪影響を及ぼす。  後藤はエドとは異なり特段『大好物』ではなかったが、酒の仕込みの季節を迎える少し前から納豆を食べるのを止めるようにしている。 毎年恒例の決まりごと、『納豆断ち』だった。  自分ですら少々もの寂しいと感じるのだから、エドの心中は如何(いか)ばかりかと察して余りある後藤だった。
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