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今度は片手で、クイッという小気味よい音が聞こえてきそうな仕草でエドは杯を空にする。
チラリと一升瓶を見た。
その後すぐに後藤へと向けた目はもう、ほんの少したりとも揺れていなかった。
「この酒の名前は『心星』っていうんですよね」
「あぁ、どういう意味だか分かるか」
「――『心に在る星』という意味ですか」
博識と言おうか、博学なエドもさすがに言い淀む。
自信がない様子だった。
おずおずと返された答えに、
「それもなかなか味があるな」
と、後藤は嫌味などではなく感心をする。
何でも大学院を出て、今は求職中の身の上だとエドは語っていたから全く世間は見る目がないと思う。
しかし、静かに首を横へと振った。
自分も酒を、『心星』を飲んだ。
「『空の中心の星』という意味で、北極星のことだ。本来は『しんぼし』と読むらしい」
「北極星ですか」
後藤がうなずく。
自分も教えてもらうまでは全く知らなかった。
「小さくて目立たない星だが、空の真ん中に在って全く動いて見えないだろ」
「確かにそうですね」
生真面目にうなずくエドに気を良くした後藤はたちまち相好を崩す。
すると途端に線が細い、神経質そうな造りの顔が柔らかくなった。
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