Ad urbem iridis 虹の都へ

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 その瞬間、僕は分かってしまった。 僕は死なない、と。  先生の目が、確かにそう言っていた。 僕は、生き続けると――。    先生は僕の体をゆっくりと放し、世界の秘密を僕へと話し始めた。  そう遠くない未来に、異性の間での性交渉のみで罹る致死性の病気、通称『パラダイス・ロスト』が世界中に蔓延すること。  それにより、いわゆる『恋愛行為』は高性能アンドロイドを相手に行なうのが主流(スタンダード)となること。  生殖行為の制限により超少子化社会となり、クローン培養された人間にもオリジナルとほぼ同等の権利が与えられること。  ――そして僕自身については、罹っている病気の治療の為に、もうすぐ凍結保存(コールドスリープ)をされること。  解凍後、自分の病気が完治した後に『パラダイス・ロスト』の治療方法を研究し始めること。  その際に、このジラソレの花の成分が特効薬のきっかけ()となること。 開発された特効薬は『イリス』、新しい世界の約束の象徴である『虹』と名付けられること。  その名を冠された都市まで造られること。  ジラソレの黄色い花びらにそっと指先を置く先生へと、僕はたずねる。 「――先生は一体、何者なんですか」 まさか預言者だとか。 そんな、ことを思った。
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