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泡立ち、弾ける
飲むまでに十五分以上もかかる酒があるだなんて、リュウタさんから聞いても信じられなかった。
――こうして現物を目の当たりしていても、やっぱり信じられない。
ごく普通のにごり酒の四合瓶に見えた。
「スクリューキャップをほんの少しだけ緩めて、しばらく置く。あ、間宮君、お酒のおかわり」
本当に開けたかどうか分からないくらい、『ほんの少しだけ』キャップをひねり終えたリュウタさんはちょうど半合、90㏄が入る江戸切子のグラスを僕に差し出してきた。
長袖のワイシャツを半ばめくり上げているので、よく日に焼けている腕が丸見えだ。
特に太くも筋肉もついていないけど、逞しく思える。
つい、『精悍』という言葉が思い浮かぶくらいに――。
それは心の片隅へと追いやって、僕はリュウタさんへと細かい注文を訊ねる。
「又、一ノ蔵にしますか?それとも日高見にしますか?」
お酒を替えるなら、グラスも替えなければならない。
だいぶ慣れたが、未だにグラスの扱いには緊張する。
まぁ、もし割ってしまったところで、店主のシュウさんはむやみやたらに怒らないだろう。
調理でも接客でも、何一つ無駄なことはしない。
僕が尊敬する、そして、目指す居酒屋の店主だ。
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