泡立ち、弾ける

2/9
前へ
/248ページ
次へ
 リュウタさんが笑って言う。 「日高見は魚介類に合うよな」  今夜のお通しは、シュウさん特製の〆鯖だ。 スライスした生姜の酢漬けで挟んである。  リュウタさんは少しだけ悩んだ。 「でも、やっぱり一ノ蔵で。『祥雲金龍』もおめでたい名前で美味しいけど、この無鑑査の本醸造が一番馴染むな。飽きがこない」 「わかりました。グラスは――」 「替えますか?」と続ける前に先に、手が出てしまった。 「いいよ。このままで」  僕の手を捕らえて制するリュウタさんの目が、声が優しい。  とても優しいと、僕は思ってしまう。  僕は恐る恐る、手を引いた。 リュウタさんも、手を退ける。  最近やっと、表面張力の限界ギリギリまで酒を注げるようになった。 そうして用意した二杯目の一ノ蔵を、リュウタさんの前へとしずしずと置く。  ――それにしても、リュウタさんは一体何杯おかわりをするのだろうか? 例の四合瓶を開けるまでの、のはずだった。  僕が思っていることを読んだ様に、リュウタさんの手が再び四合瓶へと伸びる。 そして、又、ほんの少しだけキャップを緩めた。 「お、だいぶガスが抜けてきた。もうすぐだな~」
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加