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リュウタさんが笑って言う。
「日高見は魚介類に合うよな」
今夜のお通しは、シュウさん特製の〆鯖だ。
スライスした生姜の酢漬けで挟んである。
リュウタさんは少しだけ悩んだ。
「でも、やっぱり一ノ蔵で。『祥雲金龍』もおめでたい名前で美味しいけど、この無鑑査の本醸造が一番馴染むな。飽きがこない」
「わかりました。グラスは――」
「替えますか?」と続ける前に先に、手が出てしまった。
「いいよ。このままで」
僕の手を捕らえて制するリュウタさんの目が、声が優しい。
とても優しいと、僕は思ってしまう。
僕は恐る恐る、手を引いた。
リュウタさんも、手を退ける。
最近やっと、表面張力の限界ギリギリまで酒を注げるようになった。
そうして用意した二杯目の一ノ蔵を、リュウタさんの前へとしずしずと置く。
――それにしても、リュウタさんは一体何杯おかわりをするのだろうか?
例の四合瓶を開けるまでの、つなぎのはずだった。
僕が思っていることを読んだ様に、リュウタさんの手が再び四合瓶へと伸びる。
そして、又、ほんの少しだけキャップを緩めた。
「お、だいぶガスが抜けてきた。もうすぐだな~」
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