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永樹の運転で、母校から一番近い海岸へと向かう。
高校時代は永樹と話しながら、ひたすら歩き続けたものだ。と和史は助手席で思い返していた。
右隣の永樹の横顔はその時と同じだが、――違う。
当たり前だ。
高校を卒業してもう六年、大学を卒業しても二年が経つ。
永樹と離れ過ごす日常は、文字通りあっという間に流れていく。
和史はこの二年間で思い知らされた。
どちらかというと無口な質の永樹の沈黙は、和史にとっては昔からだ。
けして嫌ではない。
しかし口を開く。
「真奈実おばさんはお元気か?」
永樹は運転のために前を向いていたが、目元がほころぶ。
整っているが故に、平時は冷たくすら見える顔が途端に柔らかくなる。
和史が密かに大好きな表情で、永樹は答えた。
「相変わらずだ。――静香おばさんは?」
「ウチも相変わらずだ」
車内に忍び笑いの和声が漂った。
わざわざ顔を見合わせたりしなくても、和史には永樹が何を考えているのかが分かった。
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