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和史は目の前で広がる絶景よりも、自分の左隣で微笑んでいる永樹から目が離せない。
はっきり言って、見惚れていた。
永樹が一緒に見ていた夕陽を憶えているだなんて、考えてみたこともなかった――。
和史の目に映る永樹の顔があからさまに不思議がる。
形のよい長めの眉が思いっきり歪んだ。
「今日は撮らなくていいのか?」
「え?あ、あぁ!」
たった今、首からぶら下げているカメラの存在に気が付いたかの様に、和史は慌ててレンズを覗く。
一眼レフでも軽めの普段使いのだからといって、それなりに重さも存在感もある。
ゆっくりと沈んでいく太陽はもう三分の一以下になっていたが、赤黄色い光が眩しい。
しかし、思う存分シャッターを切り終え改めて見た永樹の顔の方が、和史にはより光り輝いて見えた。
小さく、――ほんの小さく吐いた和史のため息は、永樹にはまるで聞こえなかったようだ。
ポツリとつぶやいた。
「ずっと、嫉妬してた」
「えっ?」
『嫉妬』だなんて陰湿な言葉が永樹の口から飛び出してくるとは思いも寄らなかった和史は、心の底から驚く。
ただでさえ円い目をさらに大きく、まんまるく見開いた。
「おまえに撮られてる夕陽がいつも羨ましかった」
「永樹――」
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