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暗に離れて過ごしていることなど、距離の遠さなど全く関係ないと、和史の声なき声は物語っていた。
それは確かに永樹にも伝わった。
いつもは冷たくすら見える整った顔が、こぼれんばかりの笑いでいっぱいになる。
「ありがとう。和史」
「⁉」
永樹が和史の肩を引き寄せ、その上体を抱きしめた。
和史がカメラを構えていたので、その両腕は緩やかで隙間すらあった。
しかし、和史は永樹の体温を熱をしっかり感じていた。
和史はまるでバスケットボールのゴールリングの様な永樹の腕の中で、そっとカメラを下ろし手放した。
途端に、首からかけたストラップを通してカメラの重さを感じる。
空いた両手で、永樹の肩甲骨を包み込んだ。
もうずっと前から和史にとって一番の、――いや、唯一の『被写体』は永樹だった。
和史が『フォーカスライト』を当て続けてきたのは、永樹ただ一人きりだけだ――。
終
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