「マジックアワー」

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「マジックアワー」

 ここで、こうして朝を迎えるのは一体、何回目になるのだろう――。  そう考えながら、新山(にいやま)隆司(たかし)は淹れたばかりの熱いコーヒーをゆっくりすする。 ほとんど舐める様な慎重さだった。 マグカップの縁の滑らかさが、当たる唇に心地よい。  表面に雪だるまが描かれていてやたらと背が高いそれは、おそらく景品(ノベルティ)か何かなのだろう。 二回目の成人式も間近だった男が自ら選んで使うには、どうにも可愛らし過ぎると新山は思う。 それが似合って見えていたのは、果たして自分だけだったのか・・・・・・  ここを訪れる度に使っているので、新山の手にも馴染んできた。 新山よりも確実に手の小さな持ち主が、このカップを倒して何度も引き起こしていた大惨事を思い出す。 隣の席だった新山も、その度にもれなく被害を(こうむ)っていた。  今、新山が飲んでいるのは砂糖もミルクも入れていない、いわゆるブラックコーヒーだ。 不思議と少しも苦くない。 鼻先をくすぐる、カップから立ち昇る湯気すらも何やら甘く感じられる。  疲れているから味覚や嗅覚がおかしく、――つまりはバカになっているのかも知れない。  新山はそう思った。 しかし、すぐさま自分の考えを改める。
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