32人が本棚に入れています
本棚に追加
「マジックアワー」
ここで、こうして朝を迎えるのは一体、何回目になるのだろう――。
そう考えながら、新山隆司は淹れたばかりの熱いコーヒーをゆっくりすする。
ほとんど舐める様な慎重さだった。
マグカップの縁の滑らかさが、当たる唇に心地よい。
表面に雪だるまが描かれていてやたらと背が高いそれは、おそらく景品か何かなのだろう。
二回目の成人式も間近だった男が自ら選んで使うには、どうにも可愛らし過ぎると新山は思う。
それがしっくり似合って見えていたのは、果たして自分だけだったのか・・・・・・
ここを訪れる度に使っているので、新山の手にも馴染んできた。
新山よりも確実に手の小さな持ち主が、このカップを倒して何度も引き起こしていた大惨事を思い出す。
隣の席だった新山も、その度にもれなく被害を被っていた。
今、新山が飲んでいるのは砂糖もミルクも入れていない、いわゆるブラックコーヒーだ。
不思議と少しも苦くない。
鼻先をくすぐる、カップから立ち昇る湯気すらも何やら甘く感じられる。
疲れているから味覚や嗅覚がおかしく、――つまりはバカになっているのかも知れない。
新山はそう思った。
しかし、すぐさま自分の考えを改める。
最初のコメントを投稿しよう!