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ここは、新山の友人である鳥居陽佑の住居兼仕事場のマンションだ。
キッチン兼リビングに面した東向きのベランダには一切、物が置かれていない。
今は喫っていないが新山の格好の喫煙所、兼避難場所となっている。
鳥居は、新山が勤めているデザイン事務所の元同僚だった。
二十代の終わりからほぼ同期として約十年間、一緒に働いた。
まるっきりの浪花節、――使い古された言い方だが『苦楽を共にした仲』だと新山は見做していた。
そんな鳥居が昨年不惑になるや否や突然、早期退職を希望した。
個人事務所を立ち上げ、文字通り独立したのだ。
新山にとっては全くの青天の霹靂だった。
しょうがない、致し方ないと新山も思う。
鳥居には鳥居なりの、人生設計とやらがあるのだろう。
その一方で、設計段階では全く関与させてもらえなかったのにもかかわらず、今さら自分へと救援を求めてくるのは一体どういう料簡なのだろうか――。
一度、鳥居の『考え』とやらをじっくり聞いてみたいと思っていたものの、未だに新山は果たせないままでいた。
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