「マジックアワー」

7/11
前へ
/248ページ
次へ
 空はすぐには明るくならない。 太陽の出現を迎えてもしばらくは、――数十分間くらいは夜と朝との狭間をゆるやかに揺蕩(たゆた)っている。  下方のオレンジ色の光とまるっきり対照的な上空の色に、新山はしばし目を預けた。 「ブルーアワーか・・・・・・」  空が濃い青色となることから、日没と日の出直後との時間帯をこう称する。 以前、フランス語表記の『 l'heure bleue』を仕事で用いたことがあったので憶えていた。 発音のし方はすっかり忘れてしまったが。  連想で、他の言い方も併せて思い出した。 「――いや、マジックアワーだ」 そっちの方が断然相応しい。 だ。 思いも寄らない、何かとても素晴らしいことが起こりそうな予感がする。  新山は短い『魔法の時間(マジックアワー)』に、コーヒーを味わう。 マグカップの中身が空になる頃には夜は完全に消え去り、朝への入れ替わりが済んでいた。  今日は土曜日で休日だったが、パンツのサイドポケットへと仕舞いっぱなしにしていたスマートフォンを取り出しチェックをした。 「おっ」
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加