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物識り竜のひこばえは天然勇者にほだされる
竜レヴィアはかつては誇り高き野獣の王だった。
その力に肩を並べるものはいないと言われていた。
体を覆う薄い青色の、氷色の鱗は二重の甲の如く頑丈だった。
背中は連なる盾に例えられ、巌の鋲でつなぎ合わされているかの様にぴたりと合わさっていた。
――微かな息をも通らせないほどだった。
剣が当たっても、彼はけして貫かれなかった。
槍、投げ槍、矢でも同じことだった。
彼にとっては鉄は藁の様で、青銅は朽ち木の様だった。
弓は彼を逃げさせることはなく、石投げの石は藁くず同然だった。
彼は金棒を葦と見做し、槍のうなりを嘲り笑った。
彼が通った後には光の道が残り、白々とした輝きを放った。
地上には彼に似たものは二つとなかった。
そう――、彼は唯独りきりだった。
これらの全ては過ぎ去った、つまり過去のことである。
それでは『今』のレヴィアはというと――。
幼生、全く子供の姿と化していた。
竜は不死だが、不老ではない。
永いながい時を経て老い、強大な体が朽ち果てる前に自らの爪で分かつ。
それは左の真ん中の爪だと伝えられている。
新たな姿はあたかも竜の体から出た芽、若枝の様なことから『竜の蘖』と呼ばれていた。
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