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その時のことを思い出す度にレヴィアは何とも言えない心持ちになる。
全く初めてのことだったから表す言葉がまるで見つからない。
『善悪の知識の木』の実を食べてからというものの、「分からない事柄」など何一つなかったというのに・・・・・・
大の男ならば小脇に抱えられそうなほど小柄な幼生の姿と化しているとはいえ、レヴィアは紛れもなく竜だった。
イドリスはその竜に口移しで気付けの酒を何度もなんども飲ませ、氷の塊の如く冷え切った体を胸に抱き温めた。
イドリスが『煌めく剣の焔』だったからこそ出来た行ない、治療方法だった。
並みの人間ならば、いくら北方の生まれ育ちでもレヴィアの冷たさに飲み込まれて凍え死んでいたことだろう。
一方、レヴィアはただ傷付いていただけだ。
それ相応に時を要するが、体の傷は必ず癒え治る。
けして死に至ることはない。
竜は不死だからだ。
このことはイドリス以下、この世界に生きる全ての人間が知っているけして揺るぎようがない事柄、『摂理』だった。
それをどうしてわざわざ、竜たる自分を救けようとしたのか――。
レヴィアは未だにイドリスへとその理由を何故だか問えないままでいる。
これも又、レヴィアの「分からないこと」の一つだった。
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