32人が本棚に入れています
本棚に追加
北方とはいえ、『集会の山』が在る地よりはまだまだだいぶ南だ。
未だ積もる雪も少なく、所どころに地面が顔を出しぬかるんでいる。
レヴィアは泥を避けつつ進んでいたので、竜の小さな足跡が曲がりくねる小さな道を作っていた。
イドリスが自分の前を歩くレヴィアへと先回りし、しゃがみ込んだ。
そして右手を差し伸べる。
鱗と同じ青みがかった氷色の竜の目が、下からイドリスを射抜く。
「飛ぶから大事ない」
「もうすぐ林に入るぞ。枝葉を避けて飛ぶのは難儀だろう」
「・・・・・・」
青年の右手は、二の腕まで海獣の脂で鞣し固めた手甲に覆われていた。
幼生とはいえ鋭い竜の爪も、ものともしないだろう。
それはレヴィアにも「分かる」
だがしかし――。
「ほら」
「⁉」
ためらっている内に翼が生えているすぐ上、首の付け根をイドリスに掴まれヒョイと摘み上げられるとは「分からなかった」
そして、曲げた肘の上へと乗っけられる。
イドリスの左手は全くの素手だったが、細かいレヴィアの鱗をものともしなかった。
乗せられてしまったのならば致し方がない――。
レヴィアは渋しぶ大人しくイドリスの腕に留まった。
「疲れないか」
「レヴィアは軽いから平気だ」
最初のコメントを投稿しよう!