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勇者にはこの上ない愚問だとはレヴィアにはもちろん分かっていたが、問わずにはいられなかった。
イドリスが果実から口を離す。
食べるためにではなく、話すためにだ。
「この世界に棲む全ての獣たちが一堂に会する地だと伝え聞いている」
レヴィアへと答えたイドリスの声も又、生まれながらにして勇者の真摯さを宿していた。
引き締まった顔からは先ほどまでの笑みがすっかり消えた。
レヴィアが淡たんと説く。
「そうだ。ありとあらゆる獣とそれを狩る者共とが『善悪の知識の木』を目指し集まってくる。だから『集会の山』だ」
「・・・・・・」
聞き終えたイドリスは、我知らずのうちに抜き身のままで左腰へと差した得物へと右手を遣っていた。
一見しただけでは槍とも剣とも見分けがつかない代物だ。
長さがあり、総じて細身な造りだった。
隙間なく丁寧に白布で巻かれた柄をきつく握りしめる。
内側には護りの呪文が記されていた。
呪文は村の皆が一人ひとり記してくれたものだ。
中には全く文字を知らず、お手本を何度もなんどもおさらいしてから臨んだ者もいた。
皆の『想い』が手のひらに伝わり、そこから体中にへとなみなみと漲っていく気がイドリスにはした。
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