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「キョウ……今どこにいるの?」
親友が突然村から姿を消した。
もう半年が過ぎているというのに親友のキョウは帰ってこない。
「ピノ。またキョウを待っているのか」
立ち尽くしていたところを森から帰ってきた木こりのおじさんに声をかけられ、ピノはその言葉に肩を震わせる。
「もういい加減諦めろ。半年も帰ってこないんだ。今さらここに帰ってくると思えない」
「そんなことないもん!」
「辛いのはわかる。だがいつまでも帰ってこない奴を気にしていてもしょうがないだろう」
「なんでそんな酷いこと言うの! おじさんの意地悪!」
「ピノ!」
ピノは木こりのおじさんのもとを離れ走り去っていく。
「キョウ、どこにいるの?」
走りながらピノは涙をこぼした。雫は土の地面に吸い込まれていく。
もう何度目の涙だろう。
諦めろ、村の人たちはそう言うけれど、ピノは諦められない。
だって、待っていればキョウはひょっこりと帰ってくるかもしれない。
突然姿を消したように、突然姿を現すかもしれない。
「キョウ……、 キョウ!」
あなたは一体どこにいるの?
走った先には林檎の果樹園があった。鮮やかな紅色の果実がたわわに実っている。
「懐かしいな、よくここでキョウと遊んでたっけ」
まだキョウが村に引っ越してばかりだった頃、一番最初に案内したのがこの林檎の果樹園だった。
それ以来、二人で遊ぶときは決まってここへ訪れた。
木に実る林檎の甘い香りが辺りを包み込む。
その香りと共にピノの中にキョウとの思い出が溢れてきた。
『林檎ちょーうめぇ!』
『キョウって美味しそうに食べるよね』
『だって本当にうめぇんだもん。ピノも食べてみろよ』
二人で林檎を丸かじりしたこと。
キョウは一気に三つも食べてお腹を苦しそうに撫でていたっけ。
つん、と鼻の奥が痛くなる。
『チックショック!』
『なぁにそれ?』
『今大人気のギャグさ。チクショウとショックの意味を合わせてチックショック。みんな言ってるだろ?』
『言ってないよ。そんなこと言うの村でキョウだけだよ』
キョウとの何気ない会話を思い出す。つい昨日のようにキョウの笑顔が鮮明によみがえってくる。
『なぁにこの絵』
『カッコいいだろ。炊き込み戦隊スイハンジャーだ。俺の大好きなヒーロー!』
『スイハンジャー?』
『知らないの? 俺の友達はみんな知ってるよ』
『嘘。キョウは私の他に友達なんていないじゃない』
キョウはたまにピノが知らないことを話してきた。
キョウは生き生きと話していたけれど、なんだか別の世界のことを話しているようで少し怖かった。
でも今ならわかる。きっとキョウはこの村に来る前に他の国や地域の文化に触れてきたんだ。ピノたちと違って他の世界をたくさん見てきたんだ。
だからキョウはピノや村の人たちが知らないことをたくさん知っている。
みんなが当然知っているかのように話を進めるのに違和感を覚えたけれど、 キョウが教えてくれることは知らないことばかりで新鮮で、話していると時間が経つことも忘れて夢中で聞いた。
「キョウ、また会って話がしたいよ」
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