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友人に誘われるがままクラブについてきた真梨子だったが、到着してからずっと知らない男たちに声をかけられるという現状に、正直うんざりしていた。
原因はわかってる。どうせ元彼が余計なことを吹聴しているに違いない。だってここはあいつがよく出入りしている店だから。
今日だって本当は来るつもりはなかった。でも友人の茜がしつこく誘うから、仕方なくついて来たのだ。もちろん、あいつがいたら帰るのを前提に。
だけどあいつがいてもいなくても、ここは居心地が悪くて仕方ない。
酒と汗と嘘の香りがフロア全体を包み込んでいるような気がして吐き気がする。
ただでさえ夏の暑さで鬱陶しいのに、それをフロアの熱気が上回っているようにすら思う。
真梨子は壁に寄りかかり、先程から姿を消した茜を気にしながら、帰るタイミングを伺っていた。
もし茜を連れていった男がとんでもない奴だったらと思うと、心配で帰るに帰れなかったのだ。
こうなるなら、もう一人くらい連れてくるんだった……。後悔先に立たずとはこういうことなのね……真梨子はため息をつく。
その時だった。不意に男が隣に立った。男は壁に手をつき、真梨子を上から見おろしている。
「なんですか?」
真梨子は男をキッと睨みつける。初めて目にした男の顔は、真梨子を品定めをするような気配を感じた。
またか……。あいつの言葉を真に受けた男がまた一人。
「いや、さっきから君のことがちらほら噂になってたから、どんな子かと思ってさ。ちょっとした興味本位」
「でしょうね。お生憎様。私は誰とでもやるような女じゃないわ。初めて会った人とホテルに行くような軽い女じゃなくてごめんなさいね。わかったらあっちに行ってくれる? 不愉快だから」
すると男は一瞬驚いたように目を見開いてから、突然笑い始める。
その様子に真梨子は怪訝そうな表情を浮かべた。
「いや、悪いね。その通り。君が誰にでもやらせる女だって触れ回ってる奴がいるんだ。でも俺にはそう見えないし、事実を確認したかっただけ」
「あら、意外と見る目があるじゃない。私にだって選ぶ権利があるわよ」
男はクスクス笑いながら真梨子と同じように壁に寄りかかると、腕を組んで顎を前方に向けて上げる。
「あそこでやけにデカい顔してる奴ら」
彼に言われた方向に目をやると、元彼の仲間たちが集まっていた。時折真梨子を見てはコソコソ話をして笑い出す。
「あぁ、元彼の連れよ。あまりに女遊びがひどいから『浮気症の男はいらない。あんたの下手なセックスで満足できる女がいることに驚きだわ』って吐き捨てたら、後半の方が相当ショックだったんでしょうね。『お前の方が遊んでんだろ』って言われて、それがこういう状況にななったわけよ」
「なるほど、男としてのプライドを傷つけられたわけか。で、君はそんなに遊んでたわけ?」
「……付き合ったら浮気はしないわよ」
「ということは、彼氏の人数が経験人数ってことか。じゃあなんで否定しないんだ? このままだと君は軽い女のままだぞ」
真梨子はため息をつくと、宙を見た。
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