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唇を引き結び押し黙る浬へ、父親ははっきりとした口調で語り出した。
『――お前は地位も経済力もなければ人生経験も何もない、まだたった二十二歳のいたいけな若者だ。
ゆえにこうして私に頭を下げることでしか己の価値を証明できないだろう。果たしてそれが誠意に値するとは到底思えないがな』
さすがに黙っていられず、目を吊り上げて睨みつける。
感情がたやすく表に出てしまうところが自分の未熟さを露呈しているとわかっていても、喉までせり上がってくる台詞を引っ込められなかった。
『確かに、俺は何も持っていない。愛を語るには分不相応で、身の程知らずの人間であることも理解している。
でもどれだけ鼻で笑われても、彼女への気持ちだけは揺るがない。俺にとって美月は、たったひとつの、かけがえのない大切な人なんだ。この先もう誰と出会っても、彼女以上に愛せる女性はいないと断言できる』
自分の本気を軽んじられた気がして、つい歯向かうような口調になってしまったが、そんなことはもうどうでもよかった。理屈ではどうにもならないところまできていた。それほどまでに必死だった。
息子が紡ぎ出す言葉に苛烈な気配を感じ取った父親の眉尻がピクリと動いた。
一皮むけた彼の真摯な表情には心打たれるものがあったが、その感慨を覆せるほど父親が向ける眼差しは甘くなかった。
『だとしたらとことん気が済むまで、お前の意思を貫くがいい。若さゆえの情熱ではなく本物であることを、私に証明するのだな』
満足的な笑みを浮かべる父親の口元には、どこか挑発めいたものがあった。
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