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遅い時刻まで浴びるように酒を飲み続けた浬は、熱いシャワーで酒精を洗い流すとベッドに倒れ込んだ。
肉体ははっきりと覚醒していた。自暴自棄になって大酒を煽ったのに、体内のアルコール濃度にビクともしない己の頑丈さに呆れてしまう。
フ、と嘲るように緩んだ口元が、だんだんと水平に引き結ばれていく。このまま目を閉じて眠ってしまおうと思ったのに、心が波立って睡魔は訪れなかった。
不意に兄の忠言が蘇り、ぐらりと頭の中が歪んだ。
――何らかの形でお前が清宮の人間であることが世に出てしまえば、金と地位に目がくらんだ人間の餌食になる可能性だって否定できない。たった今清宮の一族が直面しているように、人の不幸を踏み台にして弱みに付け込んでくる輩のようにな。理不尽な悪意に晒されるとはこういうことだ。
理不尽な悪意。それがどういうことなのか、わかっていたようで何もわかっていなかった。
兄から届いた連絡は衝撃的な一報だった。
その騒動をきっかけに親族の周囲に置ける警戒態勢はよりいっそう強くなった。
かつてないほどの神経を尖らせ、一族内は殺伐とした空気に包まれた。
醜聞が広まることを恐れ、清宮グループの圧力で報道されることはなかった。浬自身も、絶対に他言するなと口止めされた。
挙句の果てに、実の妹のように可愛がっていた従妹は実父の突然死をいつまで経っても受け入れられず、さらに終わりが見えない悪循環にとうとう心を病んでしまう。
その火の粉は浬の身に降りかかり、家にいたくないと泣き付かれ、不承不承といった形で京都のマンションへ連れて帰る羽目になる。
次々と問題が連鎖していく負のスパイラルに呑み込まれる感覚を肌で感じていた。
とても同意など望める雰囲気ではなかった。
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