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だが幼稚舎、中学、高校と移り変わりゆく景色の中で、与えられた自由な時間にタイムリミットがあるのなら、ほんの少しだけ道を外れてみたくなった。
どんな形で家を飛び出してしまおうが、どうせいつか連れ戻される日がくる。それなら限られた残りの時間を、自分が学びたい学問や研究に費やし、今まで見たことのない外の世界に触れてみたいと思ったのだ。
最初はただの好奇心だった。いずれ家に帰る腹積もりだったし、自分の企てることが特別重大なことだとはこれっぽっちも頭になかった。
ちょうどその頃、母親が父親との離婚に踏み切ったため、身内の反対を押し切って母親と共に家を出た。
後悔や未練などの後ろめたさは感じなかった。
むしろ絶好のタイミングだと内心で母親を称えたし、それ以上にこれから待ち受ける日常への期待で、心浮き立っていた。
その後大学進学を機に、幼稚舎から高校まで通っていた名門私立一貫校の内部進学を取りやめ、外部受験にて京都の大学へ進学した。
海外留学には端から興味なかった。
京都での暮らしを選んだのは、一度東京を離れてみたかったのもあるが、日本最難関の大学と双璧を成す大学に進めば、誰にも文句を言われないだろうと思ったからだった。
初めての一人暮らしはとても新鮮だった。
大学は自由の学風を誇るだけあって、学生も教授も独創的で個性豊かな面々が溢れ、研究に懸ける異常な情熱には、常識という名の模範を示された環境下で育った浬からして見れば“非常識”であり、“奇人”とさえ思うほどだったが、知れば知るほどその生態に惹きつけられた。
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