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同時に、いかに自分が東京の真ん中にある、とてつもなく狭くて小さなサークルの中で生きてきたことを思い知った。
生まれながらの特権階級。歴然とした希少種であると自覚し、生まれ育った安心安全な世界から飛び出して、別の土地でゼロから人生を切り拓くような強い気概を抱いたことはなかったし、抱く必要もなかった。
何から何まで親に誂えられた人生。生まれ育ちや家柄、学閥、地元意識のあるエリア。驚くほど保守的で退屈であるかを。
――じゃあ、いずれは海外に?
――そうですね。いろんな世界を見て回りたいです。
……だからこそ、彼女には隔絶した箱庭のような閉ざされた世界に留まるのではなく、何のしがらみもない場所で、いつまでも自由に羽ばたいてほしいと思ったのだ。
自分の欲望を優先し、心に思い描く未来に彼女を招き入れることで、彼女の本来持つ快活さが失われるのが怖かった。
かつて祖父を裏切った女性のように、得体の知れない重圧やプレッシャーに苛まれ、もがき苦しむ彼女の姿を見るのが怖かった。
しがらみがないことがどれほど幸福であるかを心得る自分だからこそ、彼女の自由が奪われていく未来が怖かった。
でも本当は――。
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