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いかにも重厚感漂う上品なデザインに仕立てられたこのワインセラーは、酒好きな次男坊のためにと、母親が懇意な間柄にある百貨店の外商に依頼して手配してくれたものだ。
最愛の彼女と酌み交わした酒は決まってこの中に保管してある特別な逸品だった。
そんな思い出の品とも呼べるこのワインセラーも、京都のマンションを引き払う際に持ち帰ってきた品の一つだった。
静かにソファへ腰を落とした浬は、開栓した古酒を酒器に注ぎ、欲望のままにひたすら杯を重ねる。
悪酔いを引き起こしてもおかしくないほどの急ピッチで、次々と胃の中へ消化していく。
おそらくその様相を見た誰しもが無茶な飲み方だと忠告を放つだろうが、それを頭で理解していても飲むスピードを抑えられなかった。
自分を見失ってしまうほど、今は何かに縋っていないとどうしようもなかった。
その対象物を酒でしか見出せない自分が、いかに未熟で無力であるかを思い知り、浬は歯軋りした。
ふつふつと湧いてくる己の不甲斐なさにはらわたが煮え繰り返り、ここに至るまでの出来事が脳裏に浮かび上がる。
兄が京都のマンションへ訪ねてきた日を境に、浬は時間の合間を見つけて清宮の家に帰るようにしていた。
家の現状を知りたかったのもあるが、何よりも彼女との関係を認めてもらいたいという強い意志があった。
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