こいねがわくは

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社長室へご案内します、と愛想のいい川田に続いてエレベーターに乗り込む。役員室フロアで降りると、最奥にある社長室へ彼女の先導で入った。 『社長、御子息がお見えになりました』 さながら一流ホテルのVIPルームといった豪華さに設えられた室内に足を踏み入れれば、ワークチェアに腰掛ける部屋の(あるじ)は息子を見るなり形のいい眉をわずかに顰め、喉の奥で低く唸った。 『まったく、毎日、毎日よくも懲りずに……。ようやく腹を決めて帰ってくるかと思えば……お前は往生際が悪いというか、いつまで経っても手の掛かるやつだ』 ()をわきまえろ、と軽く溜め息を零した後、ほんの少しの間を開けて再び話し出す。 『……だがそうなってしまったのは、お前を自由にさせすぎた私の責任でもある』 父親の皮肉めいた悪態に反論することなく、浬は静かに深く頭を下げた。 毛足の長い絨毯で敷き詰められた床を見つめながら、なんたる無力か、と思う。 でも己の誠意を見せる術など、今はこれしか持ち合わせていない。 『こうして許しを()いにわざわざ何度も会いにくるってことは、それだけ本気なのだな』 瞳から鋭い光を放つ父親に、伏せていた顔を上げた彼は負けじと強い力を秘めた眼差しで射抜く。 とても真剣な瞳だった。疑いを挟む余地など、どこにもないほどに。
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