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目覚めてみれば、私は見慣れた病院のベッドの上にいた。
空調の効いた病室は常に適温で、細く開いた窓から入り込むぬるい風がなければ、季節がわからなくなってしまいそうだった。
日差しは明るく、部屋の気温もほんの少しだけ高い。
蝉もうるさく鳴いている。
夏を感じる。
それなのに、私はさっきまで冷たい冬の風を頬に感じていた。
もちろん夢の話だけれど。
体調が悪かったせいかしら、と首を傾げる。
それにしても、と思わず笑みがこぼれた。
「いい夢だったわね」
余韻を引きずって心がふわふわ軽い。
手のひらに残る温かい感触。
いかにも小学生の男の子らしい、低いソプラノの声も耳に残っている。
「本当に、夢だったのかしら」
もう一度首を傾げた時、病室の扉がスーっと開いて「ママ~」と、おチビちゃんが駆けてきた。そのままバフっと布団に飛びつく。
「こら! ママは病気なんだからもっとそっとしないと」と夫が焦っている。
「ママ~」
顔を上げたあどけないわが子。
大きな目をくりっとさせて私をのぞき込んでいる。
「もう、ないてない?」
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