【はじまりのおわり】

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(そうだったわ)  ここ数日の病状悪化のせいで、私は弱気になっていた。  苦しくて、辛くて、悲しくて。  たったひと月前の七夕が遠い昔のように思えて、悔しかった。  自暴自棄になって、この子の前で弱音をはいて、泣きながらふて寝して…… (だからあんな夢を見たのね)  幼子特有の細く柔らかい髪を撫でながら、「泣いてないよ」と私は笑ってみせた。 「ママね、すっかり元気になっちゃった」  ぎゅーっと言いながら、愛しいこの子を抱きしめた。まだまだ幼い匂いがするな。  ほんのり夏の大地の匂いも混ざっている。小さな手のひらの爪の間には、洗い残しの土がついていた。 「ほんと?」 「ほんと」 「やったー」  無邪気にぴょんぴょん跳ねまわる姿も愛おしい。  愛しい愛しいわが子。  誰にも渡したくない。と、つい欲が出てしまう。  あの時、最後の最後で、あの子に意地悪な選択を強いたのは、本当にあの子のためだったんだろうか。 「ママ、ぎゅーーーーーー」 「ぎゅーーーーーーーー」  たとえ、どんな形でもいいから、と切に願ってしまう自分がいる。  結局、母親なんて欲張りな生き物なのよね。と、微笑んでいた。
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