13日の金曜日

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「妊娠中のお母さんが体調を崩して緊急入院されたそうよ。正門でお父さんが待っているわ。すぐに準備して帰りなさい」  瞬間、ボッと耳が熱くなった。柚樹は真っ赤になって下を向く。 (最悪だ)  なんで妊娠とか、みんなの前で言うんだよ! 「秋山君のお母さんって……」  ひそひそ。 「先生、みんなの前で言っちゃうなんて、再婚の話知らないのかも」  ひそひそ。 「オレだったら、ハズすぎて死ぬな」  ニヤニヤ。  妊娠。出産。再婚。赤ちゃん。  ―エロい。  柚樹に向けられる嫌悪と興味の視線に呼吸が止まる。 「静かに! 他の人はテストに集中してください!」  パンパン、と林先生が手を叩いている。  斜め前に座る朔太郎がちらっと柚樹を振り返り「エロ出産」と舌を出して笑った。  カッと、頭に血がのぼる。  朔太郎の隣の席のゆかりが「やめなよ」と小さく制したが「柚樹の肩持つと妊娠するぜ」と言われ、巻き込まれたくないとばかりにテストに向き直った。  死ね、死ね、死ね、死ね。  柚樹は机の中の教科書をランドセルにぐちゃぐちゃ突っ込み、ペコリと先生にお辞儀をして逃げるように教室を飛び出したのだった。  
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