松村宗棍との初対戦

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松村宗棍との初対戦

「松村宗棍、あんた何しにここに来た?」  チル-が厳しい顔で問いかけた。 「いやあ、たまたま近くを通りかかったら、君が嫁取りの掛け試しをやってると聞いたから、ちょっと観にきたのですよ。ついでに先日の非礼を詫びようと思ってお声掛けしたんです」 「ついでですって?あんた、私がようやくたどり着いた仇を打とうとしているのを邪魔しといて、ついでの詫びで済むと思ってるわけ?」  チル-のとても不機嫌な様子に松村宗棍は、申し訳なさそうに頭を下げた。 「理由も尋ねずに邪魔したのは本当に悪かったです。しかしどうしても目の前で人が傷つけられているのを黙って見過ごせない性分なもので、ごめんなさい」 「あたしは今日もふたりほど人を傷つけたよ。それは黙って見ていたでしょ」 「今日のは武士どうしの試合ですからね。こないだとは違います」  松村宗棍の言い分は理に適っている。しかしそれがチルーの癪に触るのだ。 「まったくもう。口の達者な男って大嫌い」  その言葉を聞いた松村宗棍は、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「あの、じやあ参考までに大嫌いじゃない男って、好きな男ってどういう男かな?」 (・・え?)  今の今までチルーは考えたこともなかった問いである。 「えっと、それは・・・いいえ、男なんてみんな大嫌い!」 「それはどうして?」 「それは、琉球には本物の男が居ないからよ!力で女や弱い者を従わせようとするクズしか居やしない」 「でも君も力で男をねじ伏せているよ。それじゃやってることは君の嫌いな男と一緒じゃないかな」  本当にいちいち癪に触る男だ。チルーは我慢の限界だった。 「あんたペラペラとよく喋るね。武士なら拳で語りなさい」  そういうと同時にチルーは素早いテージグン(正拳)を松村の顔面に突き込んだ。  松村はその突きを難なく掛け手で受ける。 (八加ニ帰八はさせない!)  チルーは逆に松村の腕を掴んで動きを制し、右足の爪先を松村の脇腹目掛けて蹴り込んだ。しかし松村は軽く膝を上げて、この蹴りも難なく防いでしまう。  まだ残っていた見物人たちが騒ぎ出した。 ・・・なんだあの若造は? ・・・与那嶺チルーと互角に戦っているぞ。 (互角なんかじゃない・・!)  チルーにはわかる。松村宗棍はまったく本気を出してはいない。 「あんた本当に大嫌い!そういうナメたことやってるなら、こっちは殺し技でいくからね」  怒ったチルーは両拳をコーサ-(一本拳)に握り直し、左拳の甲を下に左脇に引き、その上に右拳の甲を上にして重ねた。  大島クルウより伝授された極秘伝の必殺技、虎の手の構えである。しかしそのとき。 「ああ、ダメだ。チルー止めなさい。そちらのあなたも拳を収めて」  チルーの父親がふたりの間に割って入った。 「お父様、邪魔しないでください」    チルーが叫ぶ。 「邪魔ではない、これは嫁取りのウガンジュだぞ。戦うなら作法を踏んでもらわねばならん。そちらのお方」 「あ、はい、私ですか?」  突然、話を振られた松村が慌てて返事した。 「チルーと戦うなら身上書を添えて正式に求婚してください。ただし私どもは地頭代を任されている家柄ゆえ、親雲上以上の身分の方に限らせていただいております」 「はあ、まあ私、いちおう松村親雲上宗棍ともうしますが」 「ああでは問題ありません。私どもまで身上書を届けてください。掛け試しは後日改めてということで」  父の言葉を聞いて、今度はチルーか慌てた、 「ちょっと父上、その男はそういうんじゃないんです」 「黙りなさい、ここは神域だぞ。作法に外れる争いは許されん。松村様、あなたもそれでよろしいですかな」 「ああ、はい。では明日にでも身上書を持って参上いたします」  チル-は唖然とした。 「ちょっと・・松村宗棍。あんた、何言ってるかわかってるの?それ、あたしに求婚するってことだよ」  松村宗棍は軽く頭を掻きながら応えた。 「うん。駄目かな、私が求婚したら」 「な、なんで・・」  チル-はなぜか顔が熱くなるのを感じた。もし赤くなっているなら見られたくないので、そっぽを向いた。 「ではこれで私は失礼いたします」  松村は深々とお辞儀をすると、背中を向けて去って行く。チルーはしばらくその背中を呆けたように眺めていた。 ・・・やれやれ、今日はここまでみたいだな、 ・・・しかし、与那嶺チルーとあの松村とかいう若造の掛け試しは見物だぞ。 ・・・松村がチルーをものにするか?チルーが松村を倒すか?賭けるか。  口々に勝手なことを言い合いながら、見物人たちも去っていった。
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