お腹が空いた草案

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お腹が空いた草案

時計の針は23時を少し回った所だった 子どもの頃から憧れていた仕事に就けたはずなのに、いつの間にかこの仕事が嫌で嫌で堪らなくなった 確かに給料は良い、だがそれだけだ プライベートな時間なんてものは無いに等しい、人間らしい生活?人並みの幸せ? そんな物を夢見て辞めていった奴らのしわ寄せがこの俺に来ている 「腹減ったな…」 玄関横の壁屋に待機する守衛に会釈をしてビルをあとにする 俺もあの爺さんも単なる歯車って事に変わりはない 高い給料を貰っているはずなのに、晩飯はいつも駅前のラーメン屋だ 「あれ?お嬢ちゃん、券売機壊れてんのか?」 「すみませ〜ん、ちょっと調子悪くてこちらでご注文伺いますね」 いつもなら黙って食券を出すだけで済んだのに、ガラにもなくメニューなんて物を開いていた 「ラーメンひとつ」 「あのっ!?」 「何?」 「いつもラーメンだけですよね?たまには他のも試して見ませんか?」 「他の?」 「あっあの…酢豚とか青椒肉絲とかラーメンだけだと栄養とか…その…」 「ラーメンでいい」 「は、はい…」 視線をテーブルに戻した俺の視界の端にトッピングの文字が見えた チャーシュー大盛り、味玉、ネギマシマシ どれも券売機だけでは得られなかった情報だ、こんなおっさんに栄養の事とか言って他のメニューを勧めてきたお嬢ちゃんに何だか申し訳ない気持ちが芽生えた 「ラーメン…おまちどうさまです」 「あ、お嬢ちゃん悪いんだけど…」 その時のお嬢ちゃんの顔は暫く忘れることは無いだろう 「味玉貰えるかな?」 「…すみません…味玉終わっちゃいました」
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