1 プロローグ①  Side A

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1 プロローグ①  Side A

 僕は永いながい時間(とき)をきみとふたりで過ごしてきた。  ある時は人と犬だったりある時は人と蝶だったり、またある時は人と石だったり――といつも僕は『人』で、きみは人の言葉を話せない動物や昆虫。植物や静物だったりした。  僕は人として生を受け、自ら動けるようになるとすぐにきみを探した。何も特別な力も持たない身では容易な事ではなかったけれど、きみがどこに居ても何であっても僕にはきみの事が分かったし、その苦労も苦労とも思わなかった。そして僕たちは人の生を終えるまで一瞬たりとも離れる事なく一緒に過ごした。時代や次元、色々なものが変わってもそれは変わる事なく繰り返された。  僕がきみに話しかけても返事など返るはずもなかったけど、それでも僕には何となくきみの気持ちが分かったんだ。たとえそれが物言わぬ石であったとしても、いつもきみは僕の事を愛してくれていた。一緒に居られて嬉しいと感じられた。――ただいつの頃からか悲しみや苦しみも感じられるようになって、ひとつ前の生では終わりが近づくにつれてきみの抱える痛みが強く感じられるようになった。だけどきみは最期までその痛みについて語る事はなく、今生で僕はきみを見失ってしまった――。  ねぇどこに居るの? どうして居場所を教えてくれないの?  こんな事は考えたくはなかったけれど、もしかしたらきみはとうに僕の事なんか好きじゃなかった? 何度もなんども繰り返す事に疲れてしまった? それとも僕の罪に気づいて、怒ってしまった――?  きみが命より大事だと言っていたあの畑も今はもうどこにもない――。  僕に縛られなければ、きみが出逢うはずだった人たち。  きみが感じるはずだった喜び、幸せ。  そのすべてを僕はきみから奪ってしまった。  それでもきみは僕を愛してくれていて、きみもそれでいいと思ってくれていると思っていた――。僕はすべてを捨ててもいいくらいにきみの事だけを愛していたから。  ねぇ……きみが本当に求めたのは――僕と同じではなかったの――?
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