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(ダー・デオミラ)
そうかい、とだけ思った。お前達も暇人なんだな。
そうかい。そうなら相手をしてやろう。
俺もまた、暇なのだ。
俺の横にはもう、誰もいないから。
その頃から、ハンスの周りには女がいなくなった。ハンスを囲むのは男ばかりだ。赤いソファーに座っているのは目に眩しい紺碧の貴族服、または瑠璃色の貴族服、とにかく派手で麗しい色を好んで服を着るハンス・ヘルデゲウス侯爵。彼に媚を売るように集まるのはまず【赤の会】の上位メンバーに、平凡な【赤の会】のメンバー。そしてそのおこぼれに預かろうと集まるのが【赤の会】に入りたいが招待されない若い貴人達だ。そのもっともっと向こう側で女達が悔しそうに様子をうかがっている。ハンスを男達に取られて口惜しがっているのだ。男達はまるで高貴な女に媚びるように口々囁いた。
「麗しの貴方。今日は誰と褥に?」
ハンスは薄く笑って答えない。
名前もろくに覚えていない男に目線をやったかと思うと、よく知っている男に首を傾げて見せて、それからおもむろに若い男を指さしてその指を動かして早く来い、と誘ってみせたりするハンスは、男を喜ばせる技術にもまた凄まじいものがあったのだ。なにせ、数えきれない女と交わっている。自分の快楽も、女が誘う動作も、男が興奮する所作も、全て解っていた。
ましてやハンスは孕まず、美しい生き物だ。女の様に花の盛りを過ぎれば枯れるような美貌など持ち合わせていない。
十代よりも華やかに、二十代よりも薫り高く、三十代よりも蠱惑的、それが四十代のハンス・ヘルゲデウスの有様だ。
咲き誇っていた。
そしてその頃のハンスには副業が一つあった。
その名は悪事である。
売ってはいけない物を売り、買ってはいけない物を買い、飲んではいけない物を飲む。
それは、人間が禁断に対する揺らぎにつけこんだ商売であるし、多少の不快さを含んだ禁忌の門を開くという事が人間にとって好奇心を満たすこともあるのだ。
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