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hero
気付けば、足が勝手に走り出していた。
無我夢中だった。持っていた物を投げ出して、帽子が頭から舞い上がって、それでも懸命に走る。
傾斜がある山道と砂利が行く手を阻むが、今はそれを気にしている場合ではない。
そうして、辿り着いた先で──アマネは素早く手を伸ばした。
「ちょ……っと! 待ちなさいっ!」
がしり、と自分よりも随分と筋張った腕を掴む。間一髪間に合った、と安堵の息を吐き出した。
後ろから急に腕を掴まれれば、それは誰でも驚くだろう。人気のない山中であれば尚更だ。
腕を掴まれた人物はびくりと身体を揺らして振り返る。そこでようやく、その青年が眼鏡をかけていることに気が付いた。遠目ではなんとなくの容姿しか判別出来なかったのだ。
陽の光に反射している金髪は眩しいくらいなのに、眼鏡の奥からこちらを見つめる銀の瞳は暗く揺れているのがはっきりと分かる。
「な……何」
「こっちの台詞、こんな所で何しようとしてるの!」
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